僕の色彩は
村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると,彼の巡礼の年』を読んだ
読みやすい平易な文章、随所に散りばめられたメタファー、独特の世界観を醸し出す村上春樹らしいオシャレ感に満ち溢れた作品だった
各所に伏線のような謎描写があるが、例によってそれらは最後まで解明されず、それが読者の想像力を刺激する
ある日、主人公の多崎つくるは高校時代の仲良しグループから突然追放されることになる
グループメンバーはアカ、アオ、シロ、クロ、そしてつくる
(つくる以外は名前に色を冠しており、あだ名としてこのように呼ばれている)
理由もわからず突然に絶交宣告を受け、つくるは絶望の日々を過ごすことになるが、なんとか時間をかけて立ち直ろうとする
鉄道会社に就職し、普通のサラリーマンとして毎日を過ごせるようになったつくる
彼はふと思い立ち、ガールフレンドである沙羅に当時のことを打ち明けてみた
沙羅は、つくるはいまだにあの出来事から立ち直りきれていないと指摘、グループのメンバーと再会し過去を清算するよう諭す
そしてつくるはかつての友人達に会いに行くことになり、彼がグループを追放された理由を知ることになる…
といった感じのストーリー
僕の頭では、随所に出てくるメタファーと物語の本筋を上手く結びつけられず、理解しきれていない部分も多かったが、まぁ全体的に楽しんで読むことができた
主人公のつくるは、自分は色彩を欠いた没個性のつまらない人間だと何度も自らを卑下する
そんな主人公と自分をなんとなく重ねながら物語を読んだ
話の後半で、クロがつくるへかけた言葉が印象的だった
「例え君が空っぽの容器だったとしても、それでいいじゃない。
自分自身が何であるかなんて誰にもわかりはしない。そう思わない?
それなら君は、どこまでも美しいかたちの入れ物になればいいんだ。誰かが思わず中に何かを入れたくなるような、しっかり好感を持てる容器に」
僕は村上春樹の小説が大好きで、高校生の頃からずっとファンをやっている
作品の登場人物を真似てハードボイルドを気取っていたイタい過去もあるほど
小さな喫茶店のような落ち着いた雰囲気
静かに進んでいく話のなかに挿入される数々の象徴的なメタファー
今回の作品も、そんな村上作品の王道をゆくものだった
そういえば、最近彼の新しい短編小説が発売されたようで、これまた楽しみだ