熱い胸騒ぎ

しがないサラリーマンの日々の出来事を徒然なるままに書いてゆきます

美味しいお米をありがとう

原田マハの『生きるぼくら』を読んだ

 

 

以前読んだ『楽園のカンヴァス』とは随分と違った作風

 

起承転結がしっかりしていて、登場人物もみな個性的かつ魅力的

 

クスリと笑える場面もあれば、ホロリと泣ける場面もある

 

人情味に溢れた心温まるハートフルストーリーだ

 

この小説では、ひとりの青年が、周囲の人間に支えられながら、米作りを通して成長していく様が描かれている

 

 

主人公の麻生人生は24歳無職引きこもり

 

幼いころに両親が離婚しており、母親とボロアパートで二人暮らし

 

母親ともロクに顔を合わせず、ネットとゲームでひたすらに怠惰を貪る日々を送る

 

そんなある日、人生を残して母が突然アパートを出て行ってしまう

 

「これから俺はどうやって生きていけばいいんだ…」

 

途方に暮れた人生は、母が残した書き置きを頼りに、父方の祖母であるマーサばあちゃんが暮らす長野県の蓼科へ向かう

 

マーサの友人である志乃の助けを借りて、なんとか祖母の家に辿り着いた人生だったが、祖母が認知症になってしまったことを知る

 

意思の疎通は問題ないが、人の顔が認知できない状態で、当然人生のことも覚えていない

 

さらに、祖母の家には、自分はマーサの孫だと言い張るつぼみという少女が住み着いていた

 

様々な葛藤がありつつ、行くあてもない人生は、マーサ、つぼみとともに共同生活を始めることになる

 

仕事も紹介してもらい、村の人たちとも打ち解けあい、徐々に蓼科での生活に馴染んでいく人生

 

しかし、マーサの症状はどんどん悪化していく

 

自力での生活が困難になったマーサに代わり、つぼみと人生で、マーサが大事にしてきた「自然の田んぼ」での米作りを始めることになる

 

といったあらすじ

 

 

全体的に読みやすく、流れるような文章

 

田舎の風景や季節感がありありと脳裡に浮かんでくる丁寧な情景描写

 

特に米作りの描写は力が入っていた

 

作者自身、実際に米作りを体験したということらしい

 

 

加えてなにより、魅力的なキャラクターたち

 

つぼみはツンデレがかわいいし、志乃さん田端さんはとても頼りになる、物語半ばで登場する純平も、場をかき乱すだけのキャラかと思いきや終盤しっかりと巻き返してくれる

 

そして主人公の麻生人生

 

親の離婚、学生時代のいじめから心を閉ざし、何事も後ろ向きだった彼が蓼科での暮らしのなかで、稲穂の如くぐんぐんと成長していく

 

同い年ということもあって、思わず「ガンバレ!」と応援したくなるようなキャラクターだった

 

「ぼくらは、みんな、生きているんだ。生きることをやめない力を持っているんだ」

 

人間ってのは環境次第でこれだけ成長できるものなんだなぁとしみじみ感じた

 

 

元キュレーターである原田マハの作品では、毎回絵画作品が登場する

 

今回は東山魁夷の『緑響く』だ

 

奥蓼科の御射鹿池がモチーフで、小説内では人生、つぼみ、マーサが湖の畔でこの絵について語り合う

 

小説のなかでこの御射鹿池は、マーサの記憶の象徴として重要な役割を果たす

 

終盤の御射鹿池での人生とマーサのやりとりは思わず目頭が熱くなった

 

 

母子家庭、いじめ、認知症、介護、田舎の過疎化

 

そういった社会問題を織り交ぜながら、人と人とのつながり、自然の美しさを教えてくれる素晴らしい作品だ

 

そしてなによりご飯が食べたくなる 笑

 

日々額に汗して美味しいお米を届けてくれる農家の皆様に思いを馳せながら、今日も美味しくご飯を頂きたいと思いますm(_ _)m